ジャパニーズヒップホップ40年史を一夜でスピン 高木完、Zeebra、YZERRプロデュース「THE SUCCESSOR - MAJ HIP HOP TRIBUTE」レポート
高木完、Zeebra、YZERRがプロデュースするライブイベント「THE SUCCESSOR - MAJ HIP HOP TRIBUTE」が6月8日に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で開催された。これは日本国内におけるヒップホップの盛り上がりを受け、6月13日に授賞式が行われる国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の関連イベントとして企画された。
イベントのテーマは、1983年に日本に上陸したヒップホップというカルチャーが、どのような紆余曲折と試行錯誤を経て一般化したのかを後継者(THE SUCCESSOR)に伝えるというもの。40年以上にのぼるジャパニーズヒップホップの歴史を彩った新旧の重要人物がプレゼンターやパフォーマーとして次々と登場した。
「どんなもんだ。これが日本のヒップホップだぜ」
トップバッターは、錚々たる顔ぶれの中からジャパニーズヒップホップの顔であるT-Pablowが務め、「Dassai」で研ぎ澄まされたスキルと強烈なカリスマ性を見せつけた。続いては司会のMC RYUが主宰のZeebraと高木完を呼び込み、ヒップホップの4大要素であるMC、BREAK DANCE、GRAFFITI、DJを日本に初上陸させた映画「Wild Style」をプレゼンした。本作はヒップホップ映画の金字塔で、日本で公開前に、当時映画にも出演していたメンバーが大挙来日して大々的なプロモーションを行った。NYアップタウンのローカルな文化が海を渡ったのはそれが初めてで、さらに、その4大要素をパッケージして知らしめたのは日本だけ。今回はその当時の模様として、伝説のクラブ・ピテカントロプスエレクトスで行われたCold Crush Brothersの貴重なライブ映像も公開された。その後、日本のブレイクダンスシーンのパイオニアであるCRAZY-Aらの「BBOY SHOWCASE」へ。最後にはRHYMESTERが参加し、ダンサーたちと「B-BOYイズム」をパフォーマンス。宇多丸は「どんなもんだ。これが日本のヒップホップだぜ」と胸を張った。
Zeebraと高木完
「BBOY SHOWCASE」の様子。
RHYMESTER
80年代、90年代におけるジャパニーズヒップホップ
次にフィーチャーされたのは80年代の日本におけるヒップホップの受け止められ方。KEN THE 390のインタビューに、いとうせいこうは「路上の現代音楽だと思った。人のレコードの歌が乗ってないところを使って自分の歌を乗せていばっている」と型破りなヒップホップの在り方に衝撃を受けたと語った。
OZworldとMC TYSONというタイプの異なる人気ラッパーのパフォーマンスを挟んで、サイプレス上野とZEN-LA-ROCKが10代で体験した90年代のジャパニーズヒップホップを回顧する。ここでは「証言 feat. RINO, YOU THE ROCK, GK.MARYAN, ZEEBRA, TWIGY, GAMA, DEV-LARGE」の貴重なレコーディング風景も公開された。さらに、ジャパニーズウエッサイの先駆者であるMC-HULKと、LAのギャングカルチャーに精通するGDX aka SHU、シソンヌ長谷川が登壇。SHUは「俺がアメリカに行く前、ヒップホップなんて小さいカルチャーだったんだ。でも帰ってきたら『さんぴんCAMP』(1996年)が盛り上がっていて、何より日本語でラップすることのカッコよさを教えてくれた」と「さんぴん」前夜の状況について語ってキングギドラにつないだ。
キングギドラは「未確認飛行物体」「Unstoppable」「平成維新 feat. UZI」をメドレーで披露。続いてZeebraがアカペラで“東京生まれヒップホップ育ち”をスピットし、彼からバトンを受けたTokyo Young VisionはDJ CHARI&DJ TATSUKIとともに「Endless」をパフォーマンスした。「MAJ 2026」の最優秀DJ賞にノミネートされているDJ TATSUKIは「DJもみんなにとって夢のある職業と思ってもらえるようにがんばりたい」と展望を明かした。
ヒューマンビートボックスやグラフィティの可能性、男性社会をサバイブしてきた女性アーティスト
ヒップホップのD.I.Y.精神を語るうえでヒューマンビートボックスも欠かせない要素だ。ここではAFRA、ヒューマンビートボックスのクルー・NOVEL VINTAGEがジャパニーズヒップホップメドレーで低音を響かせた。GRAFFITIパートではライターの有太マンが映画「Wild Style」の文字を描いたリー・キノーネの言葉を紹介。彼が「グラフィティはルールに従わない」から始まる檄文を読み上げると大きな拍手が沸き起こった。さらにTOMI-Eも参加して、GRAFFITIの可能性についても言及した。
ヒップホップは長い間、男性中心の社会だった。そんな中でサバイブしてきたDJ KaoriとCOMA-CHIも当時を回顧。Kaoriは「男性中心の競争社会の中で心が折れることしかなかった」と振り返った。そして長い時間をかけて変わりつつあるこの状況を象徴する存在として、3Li¥enが自身のダンサークルーを引き連れてド派手なライブをかまし、MaRIも堂々としたラップで観客を魅了した。
3Li¥en
MaRI
ダンスシーンの進化とDJ文化、そして新時代のラッパーたち
80年代から六本木、渋谷などのディスコやクラブに出入りしていたZeebraは「日本でヒップホップが流行るきっかけになったのはダンスだと思う。常に俺たちの一歩先をいっていた」とリスペクトを表明し、NEW DANCE SHOWCASEを紹介する。NEW DANCEとはBREAK DANCEの次に流行ったダンスのこと。このムーブメントの中からEXILEの前身となるZOOが誕生した。このパートに登場したのはROOTS OF EXILE TRIBE。パワフルでタフに、繊細でセクシーに、驚異的なダンスで観客を圧倒した。
次のプレゼンターであるDJ HAZIMEとDJ WataraiもZOOを産んだテレビ番組「CLUB DADA」に影響を受けていたという。だが2人がDJを始めた頃は、日本の景気が悪くなってプレイできる場所がなく、ライブハウスを借りていたというエピソードも聞かせてくれた。そんな時代を経て、現在のスターであるWatsonが生まれた。彼は「今はラッパー / 辞めた『風俗』『売人』『現場』『バーテン』」というラインが印象的な「Intro “Soul Quake”」で熱いラップを聴かせる。続いて名古屋が産んだスター・¥ellow Bucksがステージに。色気が伴ったダイナミズムを漂わせて「Big Shit Trouble」「Yessir」を披露し、会場を揺らした。
「日本のヒップホップはどんどん盛り上がっていきます」
レジェンドであるDJ YUTAKAの紹介から、日本を代表するターンテーブリストであるDJ Ta-Shi、DJ Kentaro、DJ IZOH、DJ RenaによるDJ SHOWCASEへ。近田春夫が「もっとデカい声出せ」と観客を煽ってからNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDがハードなライブをかました後、ラストはビートメイキングの機材であるMPCを一般化させたSTUTSとPUNPEEが代表曲「夜を使いはたして」を披露した。最後にZeebraと高木完は「日本のヒップホップは今日出てくれた若いやつらを中心にどんどん盛り上がっていきます。そして我々第一世代から第三世代もそれぞれ大人のヒップホップをやりたいなと思っています。皆さんこれからもいろんなヒップホップを楽しんでください!」とコメント。ジャパニーズヒップホップの40年史を振り返る壮大なイベントの幕を下ろした。
NITRO MICROPHONE UNDERGROUND
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 青木早霞(PROGRESS-M)、山下深礼(PROGRESS-M)