「CEIPA × TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT” Professional Seminar」ショーケース・フェスティバル編レポート|日本アーティストのグローバル展開に向けた実践的戦略と課題
8月18日、音楽業界関係者向けの公開セミナー「CEIPA × TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT” Professional Seminar Community Workshop 2nd Edition(ショーケース・フェスティバル編) Supported by Youtube」が東京・渋谷ストリームGoogleオフィスで開催された。
日本の音楽のグローバル展開と持続的な成長を目指す共創プロジェクト「MUSIC WAY PROJECT」の一環として、2025年にスタートした「Professional Seminar」。本セミナーは、アーティストの海外進出へ向けた情報共有や人脈作りを目的としており、今年はセミナー形式の「Flagship Series」、参加者同士の意見交換を主軸とする「Community Workshop」、より発展的な実践講座「Intensive Workshop」の3形式で年間を通じて行われる。
4月に行われた「カタログ編」に続く、「Community Workshop」の第2回となる今回のテーマは「ショーケース・フェスティバル編」。アーティストのグローバルなプレゼンスを高めるうえで欠かせない海外のショーケースライブや音楽フェスの実態やアプローチ方法などについて、識者らの実体験をもとにした証言が惜しみなく語られた。

海外発信に不可欠なYouTube、グラミー賞を見据えた戦略的アプローチ
メインセッションに先立ち、YouTube Musicチームの甲斐雄大氏によるスピーチと、Project AsteriのCEO・加藤公隆氏へのリモートインタビューが行われた。甲斐氏はYouTube Musicの現状と音楽業界への貢献について述べ、YouTubeが海外発信において不可欠なインフラとなっている点を強調。同社は新人育成プログラム「Foundry」やオンラインフェス「YouTube Music Weekend」、ショーケースライブ「YouTube Music Night」などを通じてアーティストの活動を協力にバックアップしているほか、生成AIの不正利用対策の強化など、アーティストの権利を守るための技術革新にも積極的に取り組んでいる。
一方、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に日本の音楽の海外展開支援活動に携わる加藤氏は、近年は日本のアーティストがグラミー賞で評価を受けるための研究やロビー活動に従事。2027年より同賞に「Best Asian Pop Performance」カテゴリが新設されることは日本の音楽業界にとって極めて大きな機会であるとし、狙うべきカテゴリを戦略的に選択したうえで、投票メンバーに興味を持ってもらうための適切なキャンペーンが肝要だという。そうした戦略を“選挙戦”になぞらえる氏は、アーティスト同士のセッションやフェス出演などを通じた交流による地道な海外市場での認知拡大が、最終的な投票を後押しすると述べた。


「ショーケースは行く前に7割が決まっている」
続いて行われたメインセッションは、3部構成で進行。第1部にはSHIN Inc.代表の野村優太氏、アーティストのSOMAOTA氏(MC / Black petrol)、Black petrolのマネジメントを務める株式会社ソニー‧ミュージックエンタテインメントの多⽥幸宏氏が登壇し、ショーケースライブの活用術についてのトークが展開された。
通常のフェスが一般のファンを対象にするのに対し、ショーケースはバイヤーやプロモーターといった業界関係者、いわゆる“デリゲーツ”に向けたB2Bの場にあたる。ライブ自体の尺は20分から30分と短く、出演料も基本的に発生しないが、その後の契約やブッキングにつなげるためのネットワーキングこそが真の目的だ。野村氏はショーケースの構造を「カンファレンス」「ライブ」「ネットワーキング」の三層構造として定義し、ライブはあくまで3分の1に過ぎないことを強調。「ショーケースは行く前に7割が決まっている」と言葉に力を込め、目的の明確化と事前準備の重要性を説いた。
実例として、京都発のエクスペリメンタルジャズバンド・Black petrolがタイのショーケース「Bangkok Music City」で客席を熱狂させたステージパフォーマンスを契機に、海外からの出演オファーを複数獲得した経緯が共有された。フロントマンのSOMAOTA氏は、ショーケースの場においてバンドの存在を印象づけるべく、言葉の壁を越えるコール&レスポンスの工夫や主催者への直接的なアプローチを積極的に試みたという。また、彼らのマネジメントを担う多田氏は、現地アーティストとの交流や事前リサーチといった“オフ・ザ・イベント(イベント時間外)”の動きが成功のカギになると力説。予算も限られる中で「1回の渡航をライブ1本で終わらせるのはもったいない」といい、ショーケースを最大限活用する姿勢を推奨した。

海外フェス進出事例と契約での注意点
続くセッションでは、音楽フェスティバルをテーマに、フェス情報メディア「Festival Life」編集長の津⽥昌太朗氏、CHAIやCreepy Nuts、SPYAIRらの海外展開を手がけてきたソニー・ミュージックエンタテインメントの川井洸太郎氏が登壇。世界のフェスティバル情勢および日本アーティストの進出事例についての分析が行われた。
津田氏はまずアメリカの「Coachella Valley Music and Arts Festival」やイギリスの「Glastonbury Festival」、ブラジルの「Primavera Sound」といった主要な音楽フェスの年間サイクルを示し、現在はアジアが世界中のフェス関係者にとって重要なキーワードになっていると解説。コロナ禍を経て日本の音楽シーンが急激に世界へ接近したとの印象を語った氏は、2022年にインドネシアでの「Head In The Clouds」にYOASOBIが初出演したことなどがきっかけとなり、日本のアーティストが海外フェスに進出する潮流が加速していると分析した。
一方の川井氏は、自身の手がけたアーティストの海外進出事例を紹介。インディーズ文脈で泥臭く世界へ打って出ていったCHAI、「Bling-Bang-Bang-Born」のバイラルヒットを契機に「コーチェラ」出演まで戦略的につなげていったCreepy Nuts、人気アニメ楽曲を武器に世界中のアニメイベントから引っ張りだこのSPYAIRと、三者三様のアプローチであったことが明かされた。また海外フェスでは、「そのフェスの前後数カ月間は同一エリアの他フェスに出演してはいけない」というエクスクルーシブ契約を交わすケースが多いとの注意喚起も。無用なトラブルに発展しないよう、契約内容を精査したうえで海外戦略を立てることの重要性が語られた。

海外戦略におけるコミュニケーションの重要性
最後のパネルセッションには野村氏、津田氏、川井氏が参加し、海外戦略におけるネットワーキングの具体的なノウハウや心構えが整理された。海外の関係者とのコミュニケーションでは恥ずかしがらずに話しかける積極性が第一に求められるが、単に情報を得るだけの“テイカー”になってはならず、相手にもメリットのある情報を提供することが良好な関係構築のカギとなる。また、視覚的なインパクトを与える独創的なアーティスト衣装や、日本の文化を感じさせる気の利いたノベルティの配布など、記憶に残るための工夫も不可欠であるとの見解で一致した。
セッションの終盤では、新たな試みとしてセミナー受講者を対象としたアンケートも実施。その結果、約半数が海外での興行経験があるものの、そのうち約7割は公的サポートや助成金などを利用していないことが判明した。この結果を受けて川井氏は、助成金は海外挑戦の強力な助けになる一方で、申請や報告に伴う膨大な事務作業が実務者の負担になっており、助成額によっては労働コストに見合わない可能性を指摘する。また、ショーケース&カンファレンス「CUEW」を主宰する野村氏は、イギリスやチェコのフェスに日本のアクトをまとめて売り込むショーケース枠の存在を紹介。個別に交渉するハードルが高い地域でも、団体として乗り込むことで現地のデリゲーツやオーディエンスに効率的にアピールできるとした。
その後、会場では質疑応答や交流会の時間が設けられ、登壇者と受講者らが活発に意見や情報を交換した。次回の「Community Workshop」は、ライセンシング、ディストリビューション、DSPピッチングをテーマに、11月6日に開催される。

