くるり、イ・ラン(韓国)、YONLAPA(タイ)が競演した特別な一夜 京都・磔磔にアジアのグッドミュージックが集結
ライブイベント「MUSIC AWARDS JAPAN SOUND SCRAMBLE supported by 京都芸術大学」が5月21日に京都のKYOTO MUSEと磔磔で開催された。この記事では磔磔公演の模様をレポートする。

音楽業界の主要5団体が垣根を越えて設立した、一般社団法⼈カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)による国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」。初年度となる今年の授賞式が5月21と22日に京都・ロームシアター京都で行われるのに合わせて「MUSIC AWARDS JAPAN アワードウィーク」が展開され、「MUSIC AWARDS JAPAN SOUND SCRAMBLE supported by 京都芸術大学」はその一環として企画された。このイベントでは京都のライブハウスを舞台にアーティストが世代や国境を越えて競演し、磔磔公演には、くるり、イ・ラン(韓国)、YONLAPA(タイ)が登場。当日あいにくの雨模様となったにもかかわらず多数の観客が殺到し、身動きも取れないほど盛況となった会場で、アジア各国のグッドミュージックが集結する特別な一夜が繰り広げられた。
なお、「SOUND SCRAMBLE」ではMAJシルバーパートナーの京都芸術大学(学校法人瓜生山学園)の学生も運営に参加。“学生の街”と言われる京都で多くの若者・学生も参加しながらライブが作り上げられた。
YONLAPA
トップバッターを務めたのは、タイの4人組インディーポップバンド・YONLAPA。トリッキーな7拍子のイントロを経て6/8拍子のミディアムチューン「Sweetest cure」でライブの幕が切って落とされると、Noi Naa(Vo, G)の透き通ったキュートな声質で紡がれるアンニュイなボーカル、Gun(G)のスペーシーでエッジィなギタープレイ、Nawin(B)とFewchy(Dr)が生み出す抑えの利いた理知的なグルーヴが混然となってドリーミーな音楽世界を織りなし、磔磔に詰めかけたミュージックラバーたちのハートを瞬時にキャッチした。

メロウでスウィートなメロディラインと柔らかな音像のギターポップを基調としつつも、要所要所でアバンギャルドなインストパートや人力フェードアウトなどのひねりの効いたギミックを差し込んでオーディエンスを楽しませるYONLAPA。曲間のMCではNoiが初めての京都訪問を喜び、前日にレンタサイクルで美しい街並みを満喫したことを楽しそうに報告した。そして「ここ京都で新曲を演奏できるのがうれしい」と前置きしてから、4人はオルタナテイストのアッパーチューン「Saltburn」を披露。アグレッシブなエイトビートでオーディエンスを熱狂させた。

ラストナンバー「I'm just like that」で観客にシンガロングを促すなどバンドとフロアの間にしっかりと信頼関係を構築した4人は、演奏を終えると満面に笑みをたたえて肩を組み、客席に何度も頭を下げて挨拶。ハイクオリティな楽曲と演奏のみならず、そのフレンドリーな人柄でも聴衆を魅了した。
イ・ラン
続いて登場した韓国のシンガーソングライター、イ・ランは、言葉の意味を正確に伝えるべく、歌詞の日本語訳を逐次スクリーンに映写しながらパフォーマンス。チェリストを含むトラッド色の強いオーガニックなバンド編成で、まっすぐに響く切実かつ実直な歌声を届けた。

「私はなぜ知っているのですか?~笑え、ユーモアに」で幕を開けた彼女のステージは、穏やかで牧歌的な音像とシリアスなメッセージが同居する独特のムードに満ち、たちまちのうちにフロアの空気を一変させる。オーディエンスたちは息を殺して彼女のたおやかな歌声に耳を傾け、控えめに奏でられるアコースティックギター、チェロ、鍵盤、ベース、ドラムの1音1音に細心の注意を払い、スクリーンに映し出される1文字1文字に目を凝らした。
続いて披露された「家族を探して」や「神様ごっこ」といった楽曲群も含め、歌われる内容は一貫して寓話的であり、哲学的であり、“生活”そのもの。近年はあまり見かけなくなった、本来の意味での純粋なフォークソングに限りなく近いものと言えるだろう。MCでは、ユーモアたっぷりの抱腹絶倒トークを涼しい顔で繰り出す親しみやすい一面ものぞかせた。

しかし終盤のMCでは、現在の難しい韓国情勢に触れるシリアスなひと幕も。彼女の代表曲と言える「オオカミが現れた」が政府の検閲に遭い、目下裁判で係争中なのだという。「韓国、ヤバいです(笑)」と気丈に笑わせるイ・ランに対し、客席から激励の声が飛ぶ。そしてその「オオカミが現れた」で貧富格差への疑問を痛烈に歌いあげたのち、ラストにはザ・フォーク・クルセダーズ版「イムジン河」の日本語カバーも披露。現代のプロテストソングの旗手として堂々たるステージを展開し、日本の音楽ファンに強烈なインパクトを残した。
くるり
最後のアクトには、京都が生んだ日本を代表するオルタナティブロックバンド・くるりが登場。この夜のステージは岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B, Cho)、松本大樹(G)、野崎泰弘(Key)、senoo ricky(Dr)という5人編成で届けられた。「潮風のアリア」でゆるやかにリリカルにライブの口火を切った彼らは、続けざまに「リバー」「三日月」を畳みかける。冒頭から比較的穏やかな楽曲が連発され、彼ららしい脱力ムードと高い演奏力が違和感なく同居する洒脱なパフォーマンスが、みるみるうちに会場を笑顔と喝采に包んだ。

このライブと同時刻にロームシアター京都で大々的に行われている「MUSIC AWARDS JAPAN」の授賞式について、岸田は「ロームシアターではロームシアターっぽいことをやってはるみたいですけど、我々は磔磔担当ということで……」と冗談めかして言及。さらに「渋めの曲を3曲お届けしたんですけど、ここからはさらに皆さんを盛り下げるために新曲を」と告げて笑わせたのち、ハードロックテイストとピアノバラードの対照的な2つの新曲を披露した。
惜しみない拍手と歓声が巻き起こる中、バンドは続けて代表曲「ばらの花」と、rickyたっての希望で選曲されたというレア曲「ハロースワロー」をプレイ。後者について「もう忘れてた曲なんで、ちゃんと終われるか不安ですけど」とは岸田の弁だったが、その言葉とは裏腹な極上のアンサンブルをフロアに届けた。アンコールでは「東京」「HOW TO GO」とおなじみの人気曲を連発してフィニッシュ。短時間ながらも濃密なセットリストでファンを大いに喜ばせた。

こうして三者三様のスリーマンライブはつつがなく閉幕。「世界とつながり、音楽の未来を灯す」という「MUSIC AWARDS JAPAN」のコンセプトをそのまま体現するような充実の内容となった。この日の模様の一部は後日「MUSIC AWARDS JAPAN」のYouTube公式チャンネルなどで配信される予定だ。
セットリスト
「MUSIC AWARDS JAPAN SOUND SCRAMBLE supported by京都芸術大学」2025年5月21日 磔磔
YONLAPA
01. Sweetest cure
02. Sunday Gloaming
03. Is that true?
04. Let me go
05. Saltburn
06. I'm just like that
イ・ラン
01. 나는 왜 알아요 X 웃어, 유머에(私はなぜ知っているのですか?~笑え、ユーモアに)
02. 가족을 찾아서(家族を探して)
03. 신의 놀이(神様ごっこ)
04. 환란의 세대(患難の世代)
05. 잘 듣고 있어요(よく聞いていますよ)
06. 의식적으로 잠을 자야겠다(意識的に眠らないと)
07. 늑대가 나타났다(オオカミが現れた)
くるり
01. 潮風のアリア
02. リバー
03. 三日月
04. 新曲
05. 新曲
06. ばらの花
07. ハロースワロー
<アンコール>
08. 東京
09. HOW TO GO