「CEIPA × TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT” Professional Seminar Public Series 1st Edition(韓国編)」イベントレポート
7月22日、音楽業界関係者向けの公開セミナー「CEIPA × TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT” Professional Seminar Public Series 1st Edition(韓国編)」がトヨタ自動車東京本社B1F大ホールで開催された。
このセミナーは、一般社団法⼈カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会(CEIPA)とTOYOTA GROUPが“日本の音楽が世界をドライブする”を合言葉に、日本音楽のグローバル展開と持続的な成長を目指す共創プロジェクト「MUSIC WAY PROJECT」の一環として行われたもの。アーティストの海外進出へ向けた情報共有や人脈作りが目的で、7月から11月にかけて予定されている全5回のうちの第1回にあたる。会場には事前に参加登録を行った約200名の関係者が詰めかけ、オンラインでのリアルタイム配信にも多数の視聴者が参加した。
本セミナーでは、海外戦略のカギとなる韓国やインドネシア、タイといったマーケットのリアルな実情をつかむため、現地からエキスパートを招聘してのトークセッションを展開。今回は「韓国編」と銘打たれた通り、韓国の音楽業界で活躍するビジネスパーソン3名が登壇した。さらに参加のグローバルな視野を育てるべく、アメリカのバークリー大学で教鞭を取る教授によるビデオ講義を上映。セミナー終了後には懇親会が実施され、参加者同士が活発なコミュニケーションを交わした。
セミナーはまず栗田秀一氏(CEIPA専務理事)による挨拶で始まり、続いて鬼頭武也氏(YouTube Japan / Googleのディレクター・音楽パートナーシップ統括責任者)が「海外進出に役立つスキル」をテーマにスピーチ。鬼頭氏は「語学力はあくまで手段にすぎない」と強調し、日本と欧米のコミュニケーション文化の違いを意識することの重要性や、“論理的に語れる言葉”を身に付けるための訓練方法などについて力説した。


続くセッションは、Alexandre Perrin氏(バークリー⾳楽⼤学バレンシア校教授)による事前収録のビデオ講義上映。スクリーンに映し出された映像の中で、Perrin氏はデジタル時代に音楽業界で成功するためにはデータ分析が重要であることを説いた。楽曲の権利マネジメントと収益化には“メタデータ”の活用が不可欠であるといい、音源を特定する「ISRC」や権利関係者を特定する「IPI」といったデータに関する基礎知識、データ分析ツール「Chartmetric」の活用法を解説。また、国や地域によって効果的な分析方法やマーケティング戦略が異なることを強調し、国際的な視点を持つことが肝要であるとの考えを述べた。

そしてセミナーは「Market Deepdive」と題したメインセッションに突入。トップバッターとして登壇したJayden Son氏(HYPEER Inc.共同設立者 / CEO)は、韓国における音楽市場の現状と攻略法について語った。現在の韓国は“J-POPインフレーション”の状態にあり、画一的なグローバル戦略ではなく、現地の文化コードを理解した“マルチ・ローカライゼーション”が成功のカギであるという。「何を聴かせるか」ではなく「何を感じさせるか」が核心だと述べるSon氏は、リスナーを5つのレベルに分類する手法や、それを踏まえたマーケティングプランなどについても具体例を交えながら解説していった。

続いて登壇したSJ氏(AXIS創業者 / CEO)は、自身がプロデュースする日本人のみで構成された女性アイドルグループ・cosmosyの事例を軸に、韓国で成功するためのクリエイティブ戦略について解説。cosmosyを日本人のみで編成した理由や、“女子高生×アイドル×少女戦士”というコンセプトを打ち出した背景、日本語と韓国語と英語を混ぜた歌詞で勝負することの妥当性などについて、その根拠を理路整然と述べていく。さらにSJ氏は、日韓のアイドルビジネスの違いにも言及。そもそも投資額が桁違いであるなどビジネスモデル自体に大きな差異があることを指摘し、時には生々しい数字を口にして笑いを誘いつつ、シビアな内容をユーモラスな語り口で淡々と伝えた。

最後の登壇者は、Cecilia Soojeong YI氏(DMZ Peace Train Music Festival共同創設者 / アーティスティックディレクター)。プロモーターの立場から、韓国のライブシーンについて解説した。近年、韓国のライブビジネスにおいてはメジャーとインディペンデントの境界が曖昧になってきているといい、韓国最大の音楽配信サービス「Melon」やファンコミュニティサイト「Namuwiki」などでファンベースを分析することの重要性を強調。また、TENDOUJIなどの事例を挙げながら、フェスティバルへの出演がローリスクハイリターンであるとの見解を示す。そして韓国市場へ参入する際には信頼できるパートナーとの協力体制が必須であるとし、公的機関や民間企業によるサポートシステムを紹介した。セミナーの締めくくりには質疑応答の時間も。会場に集まった参加者からの質問に上記3名が回答した。


冒頭でも触れたとおり、このセミナーシリーズは全5回の実施が予定されている。次回は8月14日に行われ、タイから3名の専門家が招かれる。