くるり「音博」20回目へ祈りを込めて、フェス常連バンドから大ベテランまで今年も多種多様
くるり主催の野外ライブイベント「京都音楽博覧会2025 in 梅小路公園」が10月11、12日に京都・梅小路公園 芝生広場で開催された。

「京都音楽博覧会」は、くるりが地元・京都の中心部に位置する梅小路公園を舞台として、2007年より開催している恒例イベント。「環境・文化・音楽」をコンセプトとして掲げ、国内外よりさまざまなアーティストを迎えてきた。19回目となる今回も、ジャンルや世代を超えた多様なアーティストがパフォーマンスを繰り広げ、大勢のオーディエンスを魅了した。
“フェス巧者”たちが続々登場
ライブは2日間とも、くるりの岸田繁(Vo, G)と佐藤征史(B, Vo)による開会宣言、そして岸田繁弦楽四重奏による演奏で幕開け。広大な芝生の広がる会場に優美な音が鳴らされ、穏やかな空間が作り出される。1日目のトップバッターを飾ったOmoinotakeは、軽快なポップチューンとしっとりしたバラードナンバーを織り交ぜたセットリストでライブを展開。代表曲「幾億光年」や「トニカ」では会場中にハンドクラップを巻き起こし、その存在感をしっかり示した。


ストリートピアニストの菊池亮太やオペラ歌手の平野和が出演した昨年と打って変わって、フェス常連の人気バンドが多数登場した今年の「音博」。「日本で一番好きなバンドのフェスに呼んでいただけた」と感慨をにじませた[Alexandros]は、盤石なアンサンブルと記名性の高いハイトーンボイスで初見の観客の心をも瞬時につかむ。曲名の着想元であるくるり「ブレーメン」のサビを演奏しつつ「ワタリドリ」へつなげるという、リスペクトとサービス精神に満ちた場面では、会場中から大きな歓声が湧き上がった。たぎるような演奏で大きなうねりを起こしたのは10-FEET。くるりと同じく京都出身の彼らは、エモーショナルな歌声とサウンドで会場全体をくまなく巻き込み、ラスト36秒で「RIVER」のワンフレーズを演奏するなど、徹底した“フェス巧者”っぷりを発揮した。
![[Alexandros]のステージの様子。(撮影:井上嘉和)](https://ogre.natalie.mu/media/news/music/2025/1016/93202948.jpg?impolicy=lt&imwidth=750&imdensity=1)

大合唱もチルアウトも
「音博」最多出演の後藤正文(Vo, G)擁するASIAN KUNG-FU GENERATIONは、言わずと知れたロックアンセム「リライト」で大合唱を巻き起こす。さらに「Little Lennon」で楽曲のプロデュースを手がけた岸田とコラボし、京都を舞台にした「出町柳パラレルユニバース」を披露するなど、「音博」ならではのハイライトを生み出していった。2日目には、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気バンド・マカロニえんぴつも。ロックバンドらしい硬派さと、親しみやすいエバーグリーンな魅力を併せ持った彼らの演奏に、多くの観客の視線が釘付けになる。はっとり(Vo, G)は代表曲「ブルーベリー・ナイツ」のアウトロにつなげる形でくるり「虹」の一節を歌い、「くるりに教えてもらったさまざまなことを自分のものだと思い違いしながらロックバンドをやってます。くるりのおかげです」と語るなど、その真摯な思いを形にした。


アジカンやマカえんといったメジャーシーンで活躍するバンドと、青葉市子のような独自の世界を形成する音楽家が違和感なく共存するのも、くるり主催のフェスならでは。青葉はガットギターとキーボード、そして歌声だけで幽玄な世界へと聴衆を誘い込み、まるで舞台装置のように降り出した小雨とともに神秘的な時間を作り出す。ペンギンをテーマにした楽曲「さよならペンギン」では、青葉の急なリクエストにより岸田がユニークなペンギンの鳴き真似を披露した。

ベテラン2組、堂々と
2日目の序盤にはSHISHAMOが登場し、くるり「男の子と女の子」のカバーを皮切りに骨太なサウンドを轟かせていく。来年6月に活動終了することを発表したばかりの彼女たちだが、これがその発表後一発目のライブだという。「ドキドキしていたんですけど、こんなに素敵な景色が見れてうれしいです」と宮崎朝子(G, Vo)が顔を綻ばせ、観客は残り少ない彼女たちのステージを目に焼き付けるように見届けた。SHISHAMOに続いて現れたのは、1年限定で再集結中のRIP SLYME。彼らがパーティムードを演出すると、前列から最後方までオーディエンスが立ち上がりハンズアップするという壮観がたちまち広がる。さらに2006年にリリースされたくるりとのコラボ曲「ラヴぃ」も2組で披露され、懐かしさと高揚感が入り混じった独特な空気が充満した。


活動終了を控えるSHISHAMO、期間限定で再集結中のRIP SLYMEという2組の貴重なステージが観客の胸を打った一方で、長年第一線で活躍し続ける大ベテラン2組はその堂々たるレジェンドぶりを見せつけた。レザージャケットにスキニーパンツという上下真っ黒の装いで真昼の公園に降り立った佐野元春は、THE COYOTE BANDとともに「SOMEDAY」「約束の橋」「アンジェリーナ」という時代を超えた名曲を惜しみなく連発。衰え知らずのフレッシュさと45年の活動で培った熟練の技術で、長年のファンを熱狂させ、若い世代に新鮮な驚きを与える。昨年の「また呼んでください」という言葉通り2年連続で出演したASKAは、「こういう環境で歌わせていただけることに何より喜びを感じます」と改めて「音博」を絶賛。「恋人はワイン色」で唯一無二の伸びやかな歌声を放ち、観客の心を一瞬で掌握する。代表曲「YAH YAH YAH」では、同世代のリスナーも、若者も、ちびっ子も、文字通り老若男女あらゆる人たちが拳を突き上げ、大盛り上がり。ラストに「BIG TREE」を歌唱した彼は、赤く染まった黄昏時の広場にその歌声をじっくり届け、圧巻のステージを締めくくった。


20回目の成功を祈って
今年もヘッドライナーは2日間ともくるりが担当。畳野彩加(Homecomings)のコーラスが淡く彩る「琥珀色の街、上海蟹の朝」「ばらの花」、弦楽器の音がスリリングに鳴らされる「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」など、特別編成ならではのステージが展開される。1日目に披露された「男の子と女の子」では、切なく柔らかい岸田と畳野の歌声が、その声そっくりの夜の空気に溶けていった。



リリースされたばかりの新曲「Regulus」「ワンダリング」も演奏し、進化を続けるバンドの最新の姿を大観衆に提示したくるり。2日目には岸田が、近隣住民含むさまざまな人の協力に感謝を告げ、「いろんな方々の演奏を聴いて、私たちも楽しんでおりましたし、音楽に心を救われる瞬間が何度もありました」と思いを語る場面もあった。そして彼らは「ブレーメン」「奇跡」と人気曲を立て続けに披露し、たおやかな祝祭感や郷愁に満ちたサウンドで会場を包み込む。最後にくるりは、20回目となる来年の「音博」の成功、その場にいる人々の健康への祈りを込めて、「宿はなし」を演奏。これから帰路に着く観客をそっと見送るように、優しい音で19回目となる「音博」を締めくくった。

セットリスト
「京都音楽博覧会2025 in 梅小路公園」2025年10月11、12日 梅小路公園 芝生広場
DAY 1
岸田繁弦楽四重奏
- 岸田繁 作曲 弦楽四重奏のための古風な舞曲「あなたとの旅」
- 岸田繁 作曲 弦楽四重奏曲第一番「月の恋、愛の日」
Omoinotake
- フェイクショー
- アイオライト
- 幸せ
- Gravity
- ひとりごと
- 心音
- 幾億光年
- トニカ
[Alexandros]
- Adventure
- Waitress, Waitress!
- Starrrrrrr
- ハナウタ
- 超える
- ワタリドリ
佐野元春 & THE COYOTE BAND
- 君をさがしている(朝が来るまで)
- ヤングブラッズ
- つまらない大人にはなりたくない
- La Vita é Bella
- エンタテイメント!
- SOMEDAY
- 約束の橋
- アンジェリーナ
10-FEET
- RIVER
- Re方程式
- ハローフィクサー
- 第ゼロ感
- その向こうへ
- 蜃気楼
- ヒトリセカイ
- goes on
ASIAN KUNG-FU GENERATION
- ブルートレイン
- リライト
- Little Lennon / 小さなレノン(くるり岸田繁とのコラボ)
- 出町柳パラレルユニバース
- ライフ イズ ビューティフル
- ソラニン
- MAKUAKE
くるり
- 琥珀色の街、上海蟹の朝
- アナーキー・イン・ザ・ムジーク
- Liberty & Gravity
- 男の子と女の子
- ばらの花
- ハローグッバイ
- Regulus
- ワンダリング
- ブレーメン
DAY 2
岸田繁弦楽四重奏
- 岸田繁 作曲 弦楽四重奏のための古風な舞曲「あなたとの旅」
- 岸田繁 作曲 弦楽四重奏曲第二番「変な料理」
SHISHAMO
- 男の子と女の子(くるりカバー)
- 夏恋注意報
- 運命と呼んでもいいですか
- ハッピーエンド
- 最高速度
- 明日も
- 明日はない
RIP SLYME
- STEPPER'S DELIGHT(2025 ver.)
- 楽園ベイベー
- Wacha Wacha
- JUMP
- どON
- 熱帯夜
- JOINT
- ラヴぃ(くるりとのコラボ)
青葉市子
- Space Orphans
- テリフリアメ
- アンディーヴと眠って
- 惑星の泪
- 機械仕掛乃宇宙
- 月の丘
- さよならペンギン(くるり岸田繁とのコラボ)
マカロニえんぴつ
- いつか何もない世界で
- レモンパイ
- poole
- 化け物
- ブルーベリー・ナイツ
- 洗濯機と君とラヂオ
- 星が泳ぐ
- 静かな海
ASKA
- 恋人はワイン色
- SAY YES
- 好きになる
- 僕はこの瞳で嘘をつく
- YAH YAH YAH
- 消えても忘れられても
- BIG TREE
くるり
- 瀬戸の内
- ワンダリング
- Regulus
- 琥珀色の街、上海蟹の朝
- ばらの花
- グッドモーニング
- アナーキー・イン・ザ・ムジーク
- ブレーメン
- 奇跡
- 宿はなし
提供元:音楽ナタリー