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「MUSIC AWARDS JAPAN -Deep Insights-」第5回、世界的ヒットを生み出す“トリガー・マーケット”フィリピン音楽シーンに迫る

国内最大規模の音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」。音楽業界の主要5団体(日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会)が設立した一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会(CEIPA)の主催により、「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」をコンセプトに掲げて2025年に新設された。

2年目となる今年は、6月13日に東京・TOYOTA ARENA TOKYOで授賞式が開催される。昨年より規模を拡大し、主要6部門(最優秀楽曲賞、最優秀アーティスト賞、最優秀ニュー・アーティスト賞、最優秀アルバム賞、Best Global Hit from Japan、最優秀アジア楽曲賞)を含む全77部門が設けられた。

授賞式に先駆け、MUSIC AWARDS JAPAN / CEIPAのYouTube公式チャンネルでは番組「OTOMO presents MUSIC AWARDS JAPAN -Deep Insights-」を配信中。「今、音楽シーンでは何が起こっているのか?」をテーマに、MCを務めるハリー杉山が毎回異なる有識者をゲストに招いて各音楽ジャンルの“現在”を解き明かすトーク番組だ。

フィリピンの音楽シーンが“トリガー・マーケット”である理由

第5回では前回に引き続き「最優秀アジア楽曲賞」をテーマに据え、フィリピンの音楽シーンに注目。前回同様にラジオDJの土井コマキがハリーとともに聞き手を務めた。

今回のゲストは、フィリピン・レコード産業協会会長で「AWIT Awards」組織委員会委員長を務めるエンゾ・バルデス氏。スタッフが本番組へのリモート出演を打診したところ、たまたま休暇で日本へ向かっている途中だったのだそう。バルデス氏は即座に空港からスタジオへ直行することを決め、対面での出演が実現した。

フィリピンの音楽シーンは、世界的なヒットを誘発する“トリガー・マーケット”と呼ばれている。その理由についてバルデス氏は、国民の平均年齢が約25歳と非常に若いことと、全人口の約1割にあたる1000万人ほどが海外で暮らしていることを挙げ、世界中に点在するフィリピン人たちが同時に同じ音楽を聴くことが各国のバイラルチャートに影響していると解説。また、国民の大半が英語を話せることも、国際的なアーティストがフィリピンを拠点に世界を目指す潮流を生んでいる重要な要因であると説明した。

そんなフィリピンでは、日本の音楽も非常に好まれているという。藤井 風やAdoのコンサートはチケットが即完するほどの人気で、RADWIMPSやONE OK ROCKといったバンドは頻繁にフィリピンでライブを行っている。YOASOBIや新しい学校のリーダーズも注目されているほか、若い世代の間では欧米と同様にシティポップが流行しており、現地のミュージシャンたちに多大なインスピレーションを与えているとバルデス氏は語った。

「音楽はフィリピン人のDNAに刻まれている」

続いてハリーと土井は、フィリピン音楽を語るうえで欠かせない概念である「OPM(Original Pilipino Music)」についての解説を要求。バルデス氏は「ちょっと歴史の授業をしましょう」といたずらっぽく前置きしてから、次のように述べた。

1521年のスペイン入植以前に存在したフィリピンの民族音楽は、その後300年にわたるスペイン統治時代にそのほとんどが忘れられていったが、代わりにキリスト教の宗教音楽が根づき、愛されるようになっていった。続く50年間のアメリカ統治時代には英語と西洋音楽が浸透するなど、「350年もの間、違うものを押しつけられてきた」ことになる。そして1946年の独立以降、フィリピン人たちは自分たちの音楽的アイデンティティを模索する中で1970年代に「OPM」という言葉を生み出し、マニラ・サウンドと呼ばれる独自のサウンドを創出。現代ではアメリカ発のヒップホップや韓国のK-POPなどの影響も絶大であるが、その中でも音楽を通じて自分たちのアイデンティティを確立しようとする姿勢を保ち続けている。

バルデス氏は「フィリピン人が最初に輸出したものは、実は音楽である」という言説を引用し、フィリピン人にとって音楽がいかに重要なものであるかを力説する。オリヴィア・ロドリゴやブルーノ・マーズといった世界的スターがフィリピン系であることや、「The Voice」や「America's Got Talent」でのフィリピン人の優勝、さらに葬儀や通夜の場でカラオケをする文化などにも言及しながら、「音楽はフィリピン人のDNAに刻まれている」という表現でフィリピン人の音楽愛の深さを強調した。

バルデス氏が委員長を務める「AWIT Awards」は、今年で39回目を数えるフィリピンの国民的な音楽賞。「AWIT」はタガログ語で「歌う」という意味を持つ語だが、近年では歌唱のみならずプロデュースワークや作曲、ミュージックビデオ、アルバムアートワークなど、幅広い音楽分野を対象としている。「AWIT Awards」ならではの特色としては、カトリック教徒が多くクリスマスを大切にする文化に根ざした「ベスト・クリスマス・レコーディング賞」や、若い才能を讃える「ベスト・チャイルド・パフォーマー賞」といった賞の存在が挙げられる。とくにフィリピンのクリスマスシーズンは9月から始まることもあり、毎年数多くの新曲が生み出されているのだという。

アジア独自のスタイルを確立することの重要性

番組終盤では、「MAJ2026」の「最優秀アジア楽曲賞」にエントリーされたフィリピン楽曲についても解説が行われた。ノミネート作品にも選ばれたCup of Joe「Multo」は、フィリピンチャートにおいて史上最長となる226日間にわたって1位を記録した楽曲。バルデス氏によると「かつて愛した人に取りつかれているような気持ちを歌った失恋ソング」とのことで、「フィリピン人は失恋ソングやラブソングが大好き」なのだそう。

その言葉を裏付けるように、同じくエントリー楽曲であるEarl Agustin「Tibok」もラブソングだ。2023年にリリースされた楽曲ながら2025年に人気テレビ番組のテーマソングとして起用され、時を経て爆発的なヒットとなった。また、「Marilag」がエントリーされたR&BアーティストのDionelaは、Ne-Yoなどに受けた音楽的影響の中にフィリピンらしさを残すユニークな存在だという。歌詞にはタガログ語と英語を交ぜた“Taglish”が使われており、両言語を流暢に話せるフィリピン人にとって、Taglishは自然かつクールなものとして捉えられているようだ。

バルデス氏は、「MAJ」などによってアジア各国のパートナーシップが強固になっていくことへの期待を口にする。「アメリカを見てみると、88risingのようなアジア系アメリカ人の音楽がありますよね。それがもしアメリカ発ではなく、アジア発だったらどうでしょう?」と問いかけ、アジア独自のスタイルを確立することの重要性を強調。それにはもちろん、フィリピンと日本のさらなる交流は欠かせない。フィリピンのアーティストたちは日本のアニメや食べ物などカルチャー全般を愛しており、日本のリスナーの音楽愛の深さにも感銘を受けているという。「もっと多くのアーティストが日本でパフォーマンスする姿を見たいですし、もっと多くの日本のアーティストがフィリピンでパフォーマンスする姿を見たい」と目を輝かせた。