アジアのアーティストが集結するMAJスペシャルライブ「Shibuya Sound Scramble 2026」レポート|Cup of Joe、Hindia、Billyrrom、日食なつこが熱気を生み出したSONG BRIDGE Stage
国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の関連イベントとして、6月11日に「MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE-Shibuya Sound Scramble 2026-」が開催された。「MUSIC AWARDS JAPAN」が掲げる「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」というコンセプトにもとづき、東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE、Spotify O-WEST、Spotify O-nestの3会場にアジアのアーティストが集結。渋谷duo MUSIC EXCHANGEの「SONG BRIDGE Stage」にはフィリピンのバンドCup of Joe、インドネシアのシンガーソングライターHindia、日本からはBillyrrom、日食なつこが出演した。
日本在住、インバウンド問わず、人気アーティストのライブが近い距離で見られるとあって、インドネシアやフィリピンのオーディエンスがファンチャントを行うなど、開演前から尋常ではない熱気が漂う場内。ステージへの期待値の高さはもちろん、会場の至るところで再会を喜ぶ観客同士の交流も場の空気をポジティブなものにしていた。
日食なつこ
Billyrrom
トップバッターはディスコ、ファンク、ソウルを主なルーツにオリジナルの音楽を拡張するバンドBillyrrom。台北、台中、韓国、廈門、上海、インドネシア、タイなど海外のフェスやイベントにも参加し、アジア9つの国と地域でで大型プレイリストインも果たしている彼らは、この春にユニバーサルミュージックとグローバルパートナーシップを結び、メジャーデビューしたばかり。アジアでの人気も確実に高まっている中、この日のフロアはメンバーも驚くほどの歓待ぶりだった。1曲目のディスコファンクチューン「Defunk」のサビで早くもシンガロングが起き、Mol(Vo, G)が何度もフロアにマイクを向ける。メンバー紹介も兼ねたソロ回しにも拍手が送られ、続く「Apollo」では四つ打ちのキックに合わせてハンズクラップが響き渡った。
Billyrrom
続いてBillyrromは英語やインドネシア語を交え感謝を述べたのち、メジャー1stシングル「Boogie」を披露する。2番で飛び出すラップパートやスペーシーなシンセも新鮮で、バンドがチャレンジングな姿勢を見せつつ、ダンサー顔負けのアイソレーションダンスを披露するとフロアは熱狂。観客からストレートな熱量を受け取った彼らは、短い時間ながら多彩なレパートリーを展開していく。AORタッチのセクシーなピアノリフが特徴のR&Bナンバー「Hold Me Tight」では歌詞に反応してか、女性の悲鳴にも似た歓声が起こり、さらに「Clock Hands」ではラテンテイストのサウンドにもかかわらず、拳を突き上げてのコールが発生してメンバーを驚かせる場面も。しゃれたマイナーチューンが続いたのち、Billyrromはラストに夏の太陽を想起させる楽曲「Funky Lovely Girl」をドロップ。尽きないエネルギーを送る観客に思わずMolは「アメイジング!」と声を上げた。そして彼らは終始フェスのヘッドライナー並みの盛り上がりをキープしたままステージをあとにした。
Billyrrom
Cup of Joe
続いてはフィリピンのオルタナティヴポップロックバンドCup of Joeが登場。フィリピンで作られたポピュラー音楽Original Pilipino Music(OPM)シーンで人気を獲得したのち、フィリピン人アーティストとして初めて「Billboard Global 200」にランクインするなど、グローバルで存在感を放つバンドとして成長中だ。今年3月には神奈川・Kアリーナ横浜で開催された、アジアのダンス&ボーカルシーンを横断するラインナップのイベント「D.U.N.K. Showcase 2026」にも出演するなど、バンドシーンにとどまらない人気を誇っている。ツインボーカル、ツインギター、キーボードからなる5人組だが、ライブではサポートも含めた8人編成の大所帯だ。
Cup of Joe
サウンドチェックの段階からすさまじい歓声が起きていたが、シンセサウンドのイントロから「Sandali」が始まり、ボーカル2人が登場すると、いきなりクライマックスのような熱気が発生。世界のポップロックのトレンドと共鳴するサウンドと、ボーカル2人のパフォーマンスがOPM新世代を表明する。次にポップパンクとギターロックがミックスされた「Pamahiin」を披露したのち、ボーカル2人は「Shibuya Sound Scramble、すごいエネルギーだね!」「言葉は違っても音楽に乗せる感情が伝わるね」と満面の笑み。U2やColdplayのスケール感を彷彿させる「Isang Daan」では、バンド全体で重奏的なアンサンブルの強みを見せつけた。ここまでのライブは、今年リリースの最新EP「Sandali」収録曲で構成された。
その後、Cup of Joeは80sテイストのシンセサウンドがキャッチーな「Tataya」でフロアを跳ねさせる。フロントメンバーのダンスグループにも劣らないアクションも、バンドのパフォーマンスにおける大きなフックとなった。そして「アリガト、ソーマッチ! 最後にこの曲を美しいみんなに贈るよ」と、最大のヒット曲「Multo」のイントロが鳴らされると、静かなAメロから大合唱が起き、フィリピンのファンにとって心に刻まれた曲であることがリアルに理解できた。
Cup of Joe
Hindia
この会場で体験したことのないタイプの熱狂に、アジアンスターとファンのエネルギーを感じていたところ、さらにそれを倍増する熱気でインドネシアのスターアーティストHindiaが迎えられた。本国で数々の音楽賞を受賞しているほかにも、2022年にはバンドプロジェクト・Lomba SihirとしてNMEアワード「アジア最優秀バンド」にノミネートされ、また今回の来日では国際コライティングキャンプにて曽我部恵一と共作を行うなど、日本のアーティストとの交流も深めている。バンドは女性コーラスとキーボードを含む編成で、彼女らの人気も高い。
Hindia
トライバルなビートとHindiaの深遠なボーカルの「Evaluasi」でヒタヒタと迫るようなオープニングが展開されるはずが、Aメロから大合唱が起こる楽曲の浸透ぶりに本人も驚きを隠せない様子だ。サイケファンクな「Selebrisik」では女性ボーカルとの掛け合いもスリリング。さらにキーボディストがメインボーカルをとる「a feeling」は、彼女の繊細でムーディな歌声とHindiaのタフなボーカルのミックスがしゃれたネオソウルなサウンドにマッチし、音楽性の幅広さで観客を楽しませる。概して音源よりダイナミックなライブアレンジで、ファンはもちろん初見と思しきオーディエンスも演奏が進むにつれて、前のめりになっていくのがわかった。
スマホを見ながら多言語のメモを読み、日本語でも「このような場所に立たせていただいてありがとうございます」と丁寧に感謝を述べたHindia。その後も素朴なメロディとヒップホップビートが個性的な「kids」、パワフルなドラムに牽引されてフロアが爆発的に反応するインディポップナンバー「Cincin」、J-POPにも通じるカラフルなポップチューン「Berdansalah, Karir Ini Tak Ada Artinya」と、多彩な楽曲の中で魅力的なバリトンボイスとカリスマアーティストとしての振る舞いを見せてフロアを熱狂に巻き込んでいく。ラストはシンプルな8ビートと広大なサウンドスケープが清々しい「everything u are」で、インドネシアのモダンロックが持つ実力を存分に思い知らせてくれた。
Hindia
日食なつこ
トリで登場したのは日食なつこ。2024年に台北の大型フェス「JAM JAM ASIA」で初見のオーディエンスをピアノ弾き語りで魅了したり、台湾のエレクトロニカアーティストとコラボレーションを果たしたりと、近年活動の幅を広げている。この日はドラムのkomakiと2人セットでの真剣勝負だ。日食はエレピの前に座ると同時に「サンキュー、ノット・ゴー・ホーム」と挨拶して観客を笑わせたのち、自由な編成ならではのオーディエンスと近い距離感のライブをスタートさせた。授業のチャイムを彷彿させるピアノリフを盛り込んだ「大停電」では、シンプルだからこそ歌が伝わる演奏に観客が引き込まれる。そこから転がるようなスピード感の「致死量の自由」につながると、初めて彼女を見るであろう観客もハンズクラップに参加して演奏を盛り上げた。
その後は「情熱だけで生き残れたらどいつもこいつもヒーローだよ」と、歌詞の一部を曲紹介の前振りに当てて「エピゴウネ」に突入。左手のベースラインと右手の力強いリフはそれだけで必要十分な音楽として成立するが、komakiの絶妙な抜き差しによるドラミングが曲の世界観を広げていく。「英語をそんなに話せないので……もう日本語のほうがいいのかな?」と話す日食の様子からは、イベント全体の活気を受けて自身の音楽を最後まで届けようとする意思が垣間見え、さまざまな表現者にとってのロックを讃える楽曲「水流のロック」の途中では「Billyrrom、Cup of Joe、Hindia、サンキュー!」と競演アーティストへの感謝が述べられた。「LAO」ではフロア後方で自由に踊るオーディエンスも現れ、この日ならではのムードがほほえましい。そして日食は跳ねるピアノリフとドラムがサンバのノリを作り上げる「ログマロープ」でオーディエンスを揺らすと、高いテンションのピアノソロから最後にグリッサンドを見事に決め、拍手喝采の中でライブを終えた。
日食なつこ
取材・文 / 石角友香 撮影 / 新倉映見