デビューから25年、自らの音楽を変化させ続けてきた宇多田ヒカル|「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」主要部門ノミネートアーティストを解説
音楽業界の主要5団体が垣根を越えて設立した、一般社団法⼈カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)による国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」(MAJ)。この新たな音楽アワードの記念すべき第1回の授賞式が、いよいよ5月21日と22日に京都・ロームシアター京都で行われる。
先日一挙に発表された「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」のノミネート作品 / アーティスト。MAJの公式メディアOTOMOでは授賞式の開催に向け、主要部門のうち最優秀楽曲賞、最優秀アーティスト賞、最優秀アルバム賞にノミネートされたアーティストや作品をピックアップし、その特長を紹介していく。この記事では2024年4月発売の「SCIENCE FICTION」が最優秀アルバム賞にノミネートされた宇多田ヒカルをフィーチャーする。
文 / 森朋之
「Coachella Valley Music and Arts Festival」へのサプライズ出演(「Electricity」のリミックスを手がけたプロデューサー・Arcaのステージにゲストとして登場)、新曲「Mine or Yours」のリリースやYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」での「Mine or Yours」と「First Love」のパフォーマンスなど、2025年の春も多くのニュースを届けてくれている宇多田ヒカル。「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」の最優秀アルバム賞にノミネートされている「SCIENCE FICTION」は、デビュー25周年を記念した初のオールタイムベストアルバムだ。
1998年の1stシングル「Automatic」をはじめ、「SAKURAドロップス」「Can You Keep A Secret?」「Prisoner Of Love」「Flavor Of Life」などは新たなミックスで収録。さらに「Addicted To You」「traveling」「光」の新録バージョンも収められている。「Addicted To You」「光」の新録はA. G. クックとの共作。「traveling」は☆Taku Takahashiが制作に参加し、原曲の魅力を残しつつ、“今”のサウンドへとアップデートされている。
また、2曲の新曲も素晴らしい。「何色でもない花」は6/8拍子と4/4拍子を行き来するリズムの中で、クラシカルな音像と現行R&Bを融合させた楽曲。際立ったポップネスと自由な独創性という宇多田の特徴がダイレクトに反映されたナンバーと言えるだろう。「Electricity」も絶品。浮遊感と疾走感を同時に感じさせるトラック、こちらの予想を気持ちよく超えていく展開がひとつになったアッパーチューンに仕上がっている。
アルバムタイトルの「SCIENCE FICTION」の由来は、「この曲は誰のことを歌っているの?」という他者からの問いだったという。実際にあったことだけを歌っているわけでもないし、まったくの作り話でもない。そんな宇多田のソングライティングのスタイルをひと言で表すと、“サイエンスフィクション”だったというわけだ。
R&B、エレクトロをはじめとする幅広い音楽性、日本語の響きを生かした奥深いリリック、聴き手の心に直接作用するようなボーカル。98年のデビュー以来、宇多田は圧倒的なポピュラリティとクリエイティビティを共存させながら、自らの音楽を変化させ続けてきた。その創造性を裏打ちしているのは、既存の価値観に捉われない発想力と、それを具現化するテクニックやセンス。また、社会との関わりの中で、自分の歌がどうあるべきか?という知的にして優しい視線もポイントだろう。
豊かな日本語の歌、そして、国境やジャンルを超えたオリジナルのサウンドがひとつになった宇多田の音楽。海外に日本の音楽を発信するという目的を掲げた「MUSIC AWARDS JAPAN」において、本作「SCIENCE FICITON」がノミネートされていることにはとても大きな意義があるはずだ。