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「MUSIC AWARDS JAPAN -Deep Insights-」第3回、柴那典が「最優秀ニュー・アーティスト賞」を語る

国内最大規模の音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」。音楽業界の主要5団体(日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会)が設立した一般社団法⼈カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会(CEIPA)の主催により、「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」をコンセプトに掲げて2025年に新設された。

2年目となる今年は、6月13日に東京・TOYOTA ARENA TOKYOで授賞式が開催される。昨年より規模を拡大し、主要6部門(最優秀楽曲賞、最優秀アーティスト賞、最優秀ニュー・アーティスト賞、最優秀アルバム賞、Best Global Hit from Japan、最優秀アジア楽曲賞)を含む全78部門が設けられた。3月にエントリー作品 / アーティストが発表されるとともに約5000人の音楽関係者による投票がスタート。4月30日にノミネート作品が発表され、最終投票を経て授賞式にて最優秀作品が決定する。

これに先駆け、MUSIC AWARDS JAPAN / CEIPAのYouTube公式チャンネルで新番組「OTOMO presents MUSIC AWARDS JAPAN -Deep Insights-」が展開されている。「今、音楽シーンでは何が起こっているのか?」をテーマに、MCを務めるハリー杉山が毎回異なる有識者をゲストに招いて各音楽ジャンルの“現在”を解き明かすトーク番組だ。

音楽シーンの新しい歴史が始まった

第3回目のテーマは「最優秀ニュー・アーティスト賞」。ゲストに音楽評論家の柴那典を迎え、注目すべき新人アーティストたちの動向を総括した。本題に入る前に、MAJ自体の存在意義について「間違いなく音楽シーンの新しい歴史が始まった」と熱弁を振るった柴。お笑いの賞レース「M-1グランプリ」の発足以前と以後で漫才の歴史が塗り変わった例を引き合いにしながら、“MAJ以前 / 以後”でパラダイムが区切られるであろうとの見解を示す。「アワードってよくも悪くも権威であるので、振り返ったときに歴史になるんですよね。実際にその真価がわかってくるのは10年後かも、みたいなことを最初にパッと思いました」と大局的な視点での印象を口にした。

昨年の「最優秀ニュー・アーティスト賞」はtuki.が受賞。ノミネートにはFRUITS ZIPPER、Number_i、Omoinotake、こっちのけんとが名を連ねた。多岐にわたるジャンルのアーティストがノミネートされた事実が日本の音楽の多様性を示していると主張する柴は、「こういうスタイルだと売れるとか、こういうタイプの新人がブレイクするといった方程式がないんだな、といい意味で思いました」と振り返る。中でもtuki.はその象徴的な存在であるといい、“顔出しをしない弾き語り動画がTikTokでバズる”という近年の典型的な台頭ルートを16歳の若さで確立したことを評価。さらに「以前インタビューをした際、自分がtuki.であることを知らない子が友達の中にもたくさんいると言っていました。1人の10代の少女としての生活をとても大切にしている」との証言を添え、注目の的となることがすべてだったスターダムのあり方が時代とともに変化している実感を口にした。

MAJがロールモデルとすべきもの

さらに「MAJ」発足以前の各種新人賞を参照しながら、「この5年は音楽シーンを塗り替える存在がどんどん出てきた年だった」と総括する柴。特に2020年は特筆に値するシンボリックな年であったといい、「正確に言うと2019年の11月から2020年の1月くらいなんですけど、YOASOBI、藤井 風、Vaundyが一気に出てきた。コロナ禍に突入する直前に、どっちかというとひっそり活動を始めた人たちが、今や2020年代を代表するスターになっている」とその特異点ぶりを力説する。

また、ダンス&ボーカルグループのあり方にも大きな分水嶺があったと指摘。「BE:FIRSTのデビューが2021年。彼らが“オーディション発のグループ”というもののあり方を構造ごと変えた。単に“好きだから”とか“カッコいいから”だけじゃなくて、“グループの持つ価値観やビジョンに共感できる、共鳴できるから私は応援するんだ”みたいな考え方が一般に広まった」と述べ、2020年前後がさまざまなフィールドにおいて同時多発的にパラダイムシフトが起こった時期であることを強調した。

国内に限らず、世界にも数多くの新人アーティスト賞が存在することはいうまでもない。そのうち、MAJがロールモデルとすべきものはあるか?とのハリーの問いに対し、柴は「理想かどうかは置いておいて」と前置きしてからイギリス・BBCの「Sound of...」を挙げる。前年に目覚ましい活躍をした新たな才能を業界関係者が評価する賞で、過去にはAdeleやSam Smithらが受賞している。ハリーも同賞には注目しているとのことで、そこでチェックした新人アーティストが1、2年後に「FUJI ROCK FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」に出演する流れを幾度となく目撃してきたのだそう。「最優秀ニュー・アーティスト賞」もそれと同じように、のちに世界で評価されるアーティストを、新人時代に国内で評価していたことを証明する賞になるかもしれない。

柴が個人的に注目するアーティストは

翻って「MAJ2026」のエントリーアーティストに話題が及ぶと、2人はリストの多くをグループアーティストが占めている点に着目。柴は「去年の音楽シーンを振り返って、やはりHANAの躍進は象徴的だった。彼女たちを筆頭に、ダンス&ボーカルグループやアイドルグループがかなり多く並んだ」と所感を述べる。これに関連して、昨年の「MAJ」においてHANAのプロデューサー・ちゃんみなが衝撃的なパフォーマンスを披露した件に触れ、「そこから1年で、ここまで状況が変わるんだ?って。HANAはもはや新人というよりは日本を代表するグループの1つになってきている。飛び抜けた存在になった」との見方を明らかにした。

HANA以外の注目グループとしては、柴はブランデー戦記やBILLY BOOの名前を挙げ、すでに地位を確立した先輩グループを持つことなく突然変異的に出現した点を高く評価。その一方で、逆にそうした“文脈”を前面に出して躍進するKAWAII LAB.の勢いにも熱視線を注ぐ。さらに、ストリーミング市場から撤退するなど独自の硬派な活動スタイルで異彩を放つバンド・Nikoんや、ボーカロイドシーンで独特の音楽性を発揮するボカロP・吉本おじさんなど、ユニークな存在感で頭角を現す面々にも興味を募らせた。

エントリー外ながら個人的に注目するアーティストを問われた柴は、kurayamisakaとRol3ertに言及。前者は「シューゲイザー系の非常にいいギターを鳴らすバンド」、後者は「1975などに通ずるワールドワイドなセンスを持っている人」と評し、「もっともっとブレイクしていく可能性がある」と太鼓判を押した。

そうした新たな才能にどう出会っているのかというハリーの疑問に対しては、「けっこうTikTokを観ています」と柴。「しかも、イケてるユニークな新人が入るようなアルゴリズムに育てています」と誇らしげに打ち明け、ハリーの目を丸くさせた。音楽以外のコンテンツは心を鬼にして即座にスキップし、いい曲が流れてきたらじっくり視聴することでアルゴリズムが最適化されていくのだという。それを聞いたハリーが「僕、だいたいAI動画が流れてきて、ついつい観ちゃうんですよ。アルゴリズムが全然育たなくて」と嘆くと、柴は「だから、心を強く持ってTikTokと向き合っています」と胸を張った。